海からコンブがいなくなる…?!コンブ研究者、北海道大学 四ツ倉准教授へのインタビュー

私たちピュールが開発を行っている商品『利尻昆布ヘアカラーシリーズ』において主力成分である『利尻昆布』は、北海道北部に位置する利尻島で漁獲されている貴重な天然コンブです。太平洋北西域沿岸は世界で最もコンブ類(コンブ目植物)の多様性に富む地域のひとつですが、特に北海道周辺には多数の固有種があることでも知られています。しかしながら、近年は天然コンブの漁獲量減少が問題視されており、このままいけば海からコンブがいなくなってしまうのではないか、という研究報告もあるそうです。そこで私たちは、『利尻昆布ヘアカラーシリーズ』を展開するピュールとして何が出来るかを考えるべく、北海道大学で昆布研究に取り組まれている四ツ倉 典滋 准教授にお話しを伺いました。

北海道大学 四ツ倉准教授へのインタビュー

今回、弊社の執行役員CFOと研究開発室室長にて四ツ倉准教授にお話しを伺いました
自社ブランド『利尻昆布ヘアカラーシリーズ』

「私たちの研究室は北海道大学札幌キャンパス内の北方生物圏フィールド科学センター研究棟にあり、小樽市の忍路臨海実験所を利用して活発な研究を行っています。研究室では、世界中のコンブ類がそれぞれどのようなつながりを持って広まっているかを調べる多様性研究のほか、今後考えられる“コンブ類の生育環境の変化”に備え、様々な遺伝特性の把握と遺伝資源を守るための保全研究、そして、より生産性の高い産業種を作るための育種研究などを行っています。」

そもそも「コンブ」とは何か?

研究開発室室長の冨永
市場で見られる多様なコンブ製品

「コンブというのは1つの分類群「コンブ目」に含まれ、この分類群入る種を一般的に“コンブ類”と言っています。ワカメ・アラメ・カジメといったものもこのコンブの仲間です。コンブ目に属する海藻は世界に約140種ありますが、このうち私たちが日常“コンブ(昆布)”と呼ぶものは20種ほどで、およそ半数が北海道の沿岸に見られます。さらに、それらの多くは北海道や北海道周辺のエリアにしか生えていない固有種で、私たちはそれらのコンブを主に食材として利用してきたわけです。種の違いは商品の違いとして現れます。それどころか、1つの種の中でもさまざま価値の違いが見られます。天然物なのか養殖物なのか、産地はどこか、さらに採った浜はどこなのか、仕立てはどうか…などを踏まえて区別されています。例えば同じ産地の同じコンブでも選別の結果、等級分けされますが、現在の北海道のコンブには100を超える等級があります。長い歴史と深い経験に基づいて製品化される、これこそ私たちが普段目にする「コンブ」です。」

生態系にとって重要なコンブ。減少の理由と海洋への影響について

北海道の沿岸で見られる“コンブの森”
北海道南西部日本海沿岸の磯焼け(写真 北海道水産試験場提供)

「北海道の海に潜ると、まさに“コンブの森”が広がっています。コンブは食料として役立つだけでなく、温室効果ガスの削減など、二酸化炭素吸収に貢献しています。また、コンブの森の中では沢山の魚介類が生きています。コンブはそれら海棲動物にとって子育ての場をはじめとする、生命のよりどころとして働くのです。しかしながら、昨今は海の砂漠化にも例えられる磯焼けが深刻化しています。磯焼けとは、海藻が季節的な移ろいとは違った要因でその群落が減少・消失し、その状態が長く続く現象を言います。これは、北海道では日本海沿岸が顕著です。北海道の多くのコンブはロシア極東域に起源があると言われており、冷たい海と相性が良いのですが、世界的に海水温が上昇するなど、海洋環境の変化によりコンブが少なくなってきました。コンブが減少すると、コンブを餌とする生物(ウニ、アワビ、サザエ等)も減少し、沿岸漁業に大きな打撃を与えます。コンブは地域の海洋生態系の中で重要な役割を果たしているにも関わらず、その資源量の減少が深刻化しています。現在は、北海道のコンブの漁獲量は年間1万5千トンを切っており、30年前の半分以下となっています。このうち、養殖生産は比較的安定していますが、天然ものの生産量が著しく減っています。この数字の背景には、昆布漁業者の人口減少・高齢化など、コンブ資源の絶対量の減少以外の要因も存在します。様々な要因が重なり、漁獲量の減少が起こっています。」

北海道における天然コンブおよび養殖コンブの生産量の推移

地球温暖化による天然コンブの消失が懸念されている

「いろいろな場面で地球温暖化が騒がれていますが、前述の通り温室効果ガスの削減にも貢献している北日本のコンブについて、今後の分布がどうなるのかを調べたことがあります。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が予測や評価を行う際に用いるRCPシナリオ(代表濃度経路シナリオ)に基づいて予測を行いました。その結果、予測に用いた代表的なコンブ11種全てについて将来の分布域の大幅な北上が示されました。そして、特に温暖化の進行が著しいとするシナリオのもとでは、それぞれの分布域は2090 年代には 1980 年代の 0~25%になることが推察されました。また、温暖化が緩やかに進行するシナリオでも 11 種中 4 種が 2090 年代には日本の沿岸が生育適地から外れる可能性があることが予測されました。」

四ツ倉研究室の多彩なコンブ研究

研究室でコンブ胞子を行う四ツ倉准教授
四ツ倉准教授と国内外の共同研究者の皆さま(写真中央が四ツ倉准教授)

「私がコンブに関わり始めたのは、その生物学としても水産学としても解明しなければならないことがたくさんあると聞き、解き明かしたいと考えたのがきっかけでした。やり始めると面白くなり、基礎から応用までやっていきたいと思い今に至っています。日本のコンブ研究は、主産地である北海道の大学や水産試験場で多くの業績が上げられてきました。そのなかには増養殖に関するものも多く、現在では年間200億円以上もの生産額を上げているコンブ生産に大いに貢献してきました。コンブ研究を推進することは沿岸域の地域産業を支えるために重要であるとともに、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたいま、世界の和食文化を守るためにも大切であり、やりがいを感じています。」

現在学生と研究している内容は以下の3つです。

1.多様性研究

主に北太平洋西岸のコンブ類について、これらの種がどのようなもので、どのように広がっていったのかを研究しています。
生態調査や遺伝子解析を行い、種分化の道筋を辿っています。

2.育種研究

将来の生育環境を予測し、その環境で生きていけるコンブを作っていく・・・について取り組んでいます。
コンブの遺伝的多様性を損なった場合、海洋生態系やコンブ産業への影響が懸念されます。環境や産業、食文化を守るうえで環境適応株の作出・利用は必須ですが、それを進めるためには様々なことを考慮する必要があると私たちは考えています。

3.保全研究

資源量の減少が深刻化するなかで、どのように“コンブの森”を守っていけるのか・・・について研究しています。
高水温や貧栄養などの環境ストレスを調べるとともに、漁場を整備してそこにコンブを植えていく取り組みも行っています。

天然コンブと海を守るための更なる挑戦

コンブ種苗を付けたブロックの海中設置
執行役員CFOの富永

「人間の手で海洋環境を整えるのは容易ではありません。それでも、将来を見通し、海洋生態系がどう変わっていくかを見越したうえで取り組んでいく必要があります。育種研究や保全研究においては、幅広い連携の必要性を感じ、研究機関のみならず行政や生産団体、食品メーカーなどと連携しています。

コンブにおける国別の比較として面白いのが中国です。中国の沿岸部は元来コンブが生えていなかったのですが、薬などの工業用で使うということで、1950年代から国の重点政策として養殖が始まりました。結果的に、コンブの生産量は爆発的に増加し、日本が天然養殖トータルで年間1万5000トンの漁獲量であるのに対し、中国は養殖のみで150万トンを超えています。現在、中国では全国の沿岸でコンブを養殖しており、南部でも盛んに行われていて、実のところ福建省が一番の産地になっています。育種により、中国沿岸の環境で育つコンブを養殖しています。

では、北海道のコンブは何が違うのかといわれれば、歴史と多様性です。歴史については、1000年も前から漁獲されているという伝統があります。多様性については前述した通り、1つの種でも産地や取り扱い方の違いによって産業的な価値が異なります。一方で、今や食用海藻(わかめ、のり、もずくなど)のほとんどが養殖生産です。コンブ漁業も徐々に養殖に力を入れていますが、北海道は今も天然漁獲が主流であり、3分の2以上が天然物です。歴史の中で得られた経験に基づいて、多様性を活用していくことは北海道コンブのオリジナリティを発揮していくうえで大切です。一方で、北海道の昆布は世界的に見ても貴重であり、失うことはできません。私たちはこの先もコンブ資源を守るための努力を重ねていきます。」

利尻昆布を使用したヘアカラーシリーズを展開するピュールとしてできること

インタビューを通じ、環境に配慮したものづくりの重要性を改めて実感しました

今回、コンブの漁獲量減少に関する記事をきっかけに、四ツ倉准教授とご縁をいただきました。当社としても、主力の自社ブランドである『利尻昆布ヘアカラーシリーズ』においてコンブを使用していることから、責任をもって天然コンブを守る取り組みに関わっていきたいと考えています。そこでまずは、保全研究で必要となる機材の購入支援として、四ツ倉准教授の研究室に寄付をさせていただきました。また、社内としてはゼロエミッションを掲げており、産業廃棄物の再利用や、環境を汚染しない原材料を使用したり、エコ活動を会社一丸となって取り組むために川柳(標語)大会をやってみたりなど、様々な取り組みを行っています。今後も四ツ倉准教授から継続的に情報共有をいただきながら、コンブの未来、そしてより良い地球環境のために、私たちピュールが出来ることを考えていきたいと思います。